ギャッベの歴史


古代から近代、そして現代まで




イランの敷物全般の中でギャッベは最も種類が多い敷物です。
織り方・染織方法・デザイン・ウールの種類・紡ぎ方・毛足の処理の違いなどは、
他の絨毯では確認できないほどの種類を備えた敷物です。
カシュガイ族をメインにその他、多数の部族が制作するものなどを含めると、
太古の昔から数多の種類のギャッベが制作されています。
 
太古からそれぞれの部族の指揮や感性の表出をもとに、図面無し、
即興で織り進めていく技法は、ギャッベを創造し始めた当初からの独特な
オリジナル性豊かな実用性と意匠性を兼ね備えた必需品でした。
それらはどれも一点ものと存在して、その価値は現代の人々を
魅了する敷物となった所以です。
 
近年この創造性が織りなすギャッベの世界観が欧州にて紹介され、
世界中の称賛に価するとして、確固たるその地位を獲得して依頼、
ギャッベファン達の増加と人気は高まる一方です。
 
その他、世界的に人気になったギャッベの特性としては、
様々なタイプの室内や空間、そして家具や小道具、
調度品にとても良く馴染む特性を持っていること、
そしてデザイン性が空間とマッチする事は、ギャッベを囲みそこで過ごす
人間や動物達の心を楽しく癒してくれるからです。

現代の世界中のインテリアにギャッベは合わせ易い点が揺るぎない
人気アイテムとなった理由です。
 
ギャッベが、所謂ペルシャ絨毯全般と大きく異なる点は、長毛のパイルである事と、
変形サイズが豊富に多種ある事が目立つポイントとして挙げられます。
これらも人気のアイテムとなっているいくつかの理由の一つです。

ペルシャ絨毯全般は図面を構築して織るため、同じデザインを繰り返し織る事は
可能ですが、オリジナルな感性の入り込む余地はありません。
ギャッベは、それとは大きく異なり、織り手の独特な
感性が重要で、作品に直接反映される敷物となります。
ギャッベの最も魅力的で世界のファンが評価するに値する要素です。
 
ギャッベの特性や価値は、イランの絨毯業界でも高い国の財産性があると、
欧米で評価された事を受け特に現代において再評価され認めらています。
 
また、当然の事ながらギャッベはペルシャ羊毛の良質なウールをふんだんに
使用して制作されている事も人気の一つです。

ギャッベの特徴として毛足は長毛で処理され分厚くする事で、人間の体を
冷気や自然の厳しさから守る役割りを長い歴史の中で果たしてきました。

良質な羊毛を使用して織られるギャッベは長きに渡り部族の生活の必需品として
民族を支え続け、そして現代人にとってもアートな生活必需品として世界中で愛され
重宝されています。素晴らしい大自然と部族からの贈り物と言えます。
 
 
古代のギャッベ


 
ギャッベの歴史を遡ること、遥か原始時代に使用された革具類の制作の後に次ぐ、
敷物または防具としての生活必需品として制作されたものとなります。

初めに動物の毛を糸状にする為に撚る事からはじまり、そして紡いで一本の
糸にしたようです。次に、縦横の編み方を考案後、更にはギャッベの原型
となる敷物を考案したと言われています。
それらをギャッベと名付けるまでには相当長い歳月を要したと思われます。

当時は上部画像のように、羊や山羊の毛をそのまま生かし
織っていました。染色技術が発達するまでは長きに渡り動物達の
自然毛で織っていた事は広く知られているところです。

 
現在のギャッベの生産地として最も有名なカシュガイはギャッベファンにとって、
よく知られるところですが、過去長きに渡る歴史の中でギャッベの生産地は
当然現代よりかなり広範囲の地域で制作されていました。
それはどの部族もギャッベは重要な生活必需品の敷物だったからです。
 
イラン・ファールス県の中のシーラーズ・ホラサーン・ブーシェ
などの広範囲な地域で、多種多様のギャッベが織られていました。

主要なところでハムセ・カシュガイ・ママサニ・バクティアルなどが著名で、
最も芸術的価値の高いカシュガイは遥か昔から価値を認められていたようです。
 
広範囲で織られていた地域は学説によると、前記地域の他にも、
ゴンバダン、バシャド、タルギャル、チェチメゲルベイス、
ボラズジャン、ブーシェ県などが主要だったようです。
 
広範囲で織られていた理由は前記の通り各部族の生活必需品で
あった事で、遊牧部族または定住部族ともギャッベなる敷物は床、
ベッド、壁面、衣として、寒さ暑さ、雨風をしのぐ必須アイテムだったからです。

それは現代の部族間でも同じ傾向にありますが、現代は生活必需品と同時に
意匠性の範囲が格段に広がって多種多様のギャッベデザインが
私達を楽しませてくれます。
 
 

ギャッベの織り方 古代と現代


 
ギャッベの織り方と一般的絨毯との大きな違いとしてあげられる点は、
まず、ギャッベはサイズの種類がとても豊富にある事です。
それは、古来より生活必需品であったギャッベは、部族の各生活様式の
使い勝手の良い様にそれぞれのサイズに合わせて制作されていた為です。

また、ペルシャの一般的絨毯と比較すると、ギャッベは毛足がとても
長いことが大きな特徴です。ギャッベの毛足は古来より分厚くカットして
されていました。それは過酷な自然環境から人体や住居を保護する目的を
果たす為で、通常2cm前後の毛足で制作されていました。

現代のギャッベは意図的に短く刈り込み5mm程度の毛足の作品もありますが、
それらは現代の意匠としてのものであり伝統の様式ではありません。
 
次に、ギャッベ以外のペルシャの一般的な絨毯は通常、予め文様や柄の
図面を制作し、その図面通りに制作されますが、
ギャッベは図面なしで制作される感性の織物であり
各織り手の感性がそのままギャッベに反映される現代の
即興のアート的芸術性として評価される敷物です。
 
織り手の豊かな才能や感性で即興織りの一点物の為、
同様のデザインを意識的に織っても雰囲気や風合いや色合はそれぞれ
差異があり、それらが一点もの魅力であり、同系の大量生産が可能な
ギャッベ以外の絨毯とは大きく異なる点です。
 
織り機も一般的な絨毯とは異なり、ギャッベは床織りで
一般的な絨毯の制作の縦織り機は使用しません。
現代では縦織り機を使用して制作されることもあるようです。
 
織り方の種類は一般的な絨毯と同じに幾つかの種類があり、
主のファールス織りの他、アゼルバイジャン織りなどもあったようです。
 
一般的にウール絨毯と呼ばれるウールの材料は、ペルシャ羊の羊毛が
中心ですが、ギャッベも同様に良質な羊を使用する他、
稀に山羊の毛を使用して制作する場合もあります。
 

古代からのギャッベのデザインと種類

ライオンギャッベ

ライオンを象徴とした意匠は、かなり古くからの
代表的なギャッベデザインのひとつ。
 

へシティデザイン


バクティアリとファールス地域の
代表的で特徴的なデザイン。

 
ホーズギャッベ

中央にメダリオンのひし形を配置し、
周りに花柄をあしらったデザイン。
 

ゴルギャッベ

ローズや花々をデフォルメしてメイングラウンドに
そしてボーダーにも意匠を取り入れたデザイン。


 
部族デザイン

自然風景の中のひし形、円、正方形、
長方形などのデザイン。またその
図形の中に模様や柄を挿入するデザイン。
 


木のデザイン 




ギャッベデザインの歴史の中で最古の
デザインとされている木のデザイン。
木は単体の表現が多く、樹々としての連立
した表現は少ない。所謂生命の木の源です。

現代の木のデザインでは樹々と
しての作品も見受けられます。
いずれも写実的な木のデザイン
ではなく抽象的で独創的です。

現代は写実的な木の作品も見受けられます。
木の種類により籠められる意味合いが異なり
例えばモミの木は歓喜。柳は憂いを表します。
 

ストライプ 



縦のストライプ、横のストライプとも、
とても古い伝統のデザイン。
 


パズル 



ランダムな正方形、長方形を組み合わせたデザイン。
規則正しく市松模様の図形柄も伝統デザイン。
世界の発祥や人生を表現しているようです。
 


 シンプル 



特に意匠なしの一色または同系色の
グラデーションデザイン。
古代の基本となるギャッベは、
全て羊毛の元色を使用して白、黒、グレー、
茶のギャッベが織られていました。

本来は染めないギャッベが伝統で
あり基本となるギャッベです。
現代のカラーギャッベは近代の
意匠の中の創意によるものです。
 
いずれのデザインも近代や現代アートや
各国の文様の源となっているものが多く
イスラムデザインはペルシャの唐草デザインを
皮切りに幾何学やペイズリー等など、
ペルシャ発祥のデザインがとても多く、
無名のデザイナーに輩出されています。
 


ギャッベの生産地

古来よりの主要ギャッベ生産地。(名称の列挙のみ)
 
ファールス県
カシュガイ、ハムセ、ママサニ、バクティアル
 
ハムセ種
バーハル、ナファル、アラブ、イナル、バーセル
 
ママサニ4種
ベコシュ、ロスタム、ドシュマンジアリ、ジャーヴィド
 


ギャッベの生産地の特徴


・カシュガイ


     

最も古くからギャッベの生産をしていたカシュガイ族は、
技術の高さと同時に優れた感性と創造力のイメージを
繊細に表現する事に長けていた。それは現代にも引き継がれています。
 
・カシュガイ部族の織りの種類
キャシュクリ
シェーシュブルーキ
ダレシューリ
ファルシーモダン
アマレカシュガイ
 
・アマレギャッベのグリーンの色は古来より評価が高く
中央にメダリオンを意匠するのが特徴。
 

キャシュクリ部族のギャッベ



キャシュリ部族は絶え間なく天候その他の諸事情で
常に大移動をして生活営んでいました。
キャシュクリは所謂ペルシャ絨毯文様を取り入れた格別に美しい
ギャッベと現代でも高い評価を得ています。
 
ひと昔前はアマレギャッベはキャシュクリに次いで人気
だったようですが、現代では交代している感があります。
 
カシュガイ部族はバクティアリ部族の近くで生活する事が多かった為、
相互に融合し合い、婚姻関係や
文化の融合が新しい感性のギャッベの創造に繋がりました。

古くから文化の融合の多経験からギャッベにもそれらが反映して
おり、ギャッベの中では想像的な絵柄ではなく一般的な
ペルシャ絨毯の柄を彼らのテイストで表現した作風です。
 

ファールスギャッベのデザイン

ファールスギャッベもまた、湧き上がるイメージを即興で織る事に
長けた部族であり無名の織り手は才能溢れるアーティストでした。
古くからのソフレキリムの文様などにも影響を受けていたとの事ですが、
それらを完璧にオリジナル化して美の開花をさせてきました。
 
ライオンのデザインは有史以前から、イランのシンボル
としての重要な意味を含むデザインでした。
 
例を挙げると、エジプト国家がイランを紹介する際は、
ライオンの紋章を掲げながら執り行われたと言われているほどです。
鋭敏で強靭さを国章としてイランの権威を表現していました。
 
ササン朝時代には一般国民のお守りとして、
太陽を守る守護神として、様々な場面での旗印になりました。
 
その後、イランの全ての部族がオリジナルのライオンギャッベを織る事になります。
 
へシティデザインについて

ランダムな市松模様、またはチェス柄の四角は正方形では無く、
縦長の長方形を均一に並べたもの又はランダムに表現したデザイン。

四角形の中には、花、生命の木、鳥、水場、窓、動物、幾何学柄、
星などの他、部族の祈りや願いの文様が織られています。
その昔はへシティも柄なしのチェス柄を元色のみで
織っていたようです。
 
ホーズギャッベ
ひし形を中央に置きそのひし形は池を表現している。
カシュガイとキャシュクリ織りが主。
 
ギャッベの色
ギャッベを染めて色付けをし始めたのがいつ頃であるか定かではないようですが、
恐らく中世に入ってからの事と察する事が自然のようです。
但し、草木染の歴史はとても古く、発祥は中東ペルシャとしても過言ではない
程に多才なペルシャ人が草木染めを考案した事は想像に難くないとされています。
ペルシャを中心に、アラブ、ギリシャやローマ、
東洋では中国へと広まったとの諸説です。
 
草木染はほとんどの文明で貴族の特権として、そして権威を象徴するものでした。
それは当時の草木から染料を抽出する技術と染色技術は難易で
手間も必要とされていたからです。

以上の理由から
庶民の使用する一般的なギャッベの草木染での制作には
相当な時間が必要だったと想像されます。
 
ギャッベの世界で色を使い始め、時の流れの中で培われた
各部族の色の組み合わせや色彩感覚は、
所謂ペルシャの、ギャッベ以外の多様な絨毯とは
別格の色彩のバランス感覚を持ち合わせているセンスが
アート的であり、現代になり高く評価される事になりました。

そしてそれらは現代においても手作業による草木染め
である事が更にファンの心を魅了してやみません。
 
しかし、現代においても、染めていないナチュラルギャッベの人気は高く、
ナチュラル志向のファンに支持されています。
特に堅牢さと染の糸と違い、経年の日焼けがないなどが人気の秘密です。

ペルシャ羊の元色を生かし制作される敷物は、
ペルシャ絨毯の中ではギャッベのみとなります。
 
染色が盛んになるとそれぞれの部族の得意とする色が意匠と共に
際立ってきました。特にファールスギャッベの特徴は赤のギャッベを
メインに生産する事が古くからの特徴となりました。
赤の種類の豊富さは限りなく、ロナスなどの染料をもとに様々な色の
掛け合わせで淡い赤から深い赤まで数多い赤が創造されました。
 
ギャッベの色彩の意味。

青 空の無限の雄大さ。
緑 草原・豊穣・祝福。
              黄 金・国への愛・ギャッベを大切な人に贈る時の色。     
    白 生命の誕生・新生児を祝う。
 
染料の材料について
黄 エスパルク 
   オレンジ ジンジャー
           緑 ギャンドル・ターメリック・ロナス
 青 ニール・樹液
赤 ロナス
 
ファールス県で使用する独特な材料
茶 クルミの皮

 
ギャッベの材料

古来より羊毛のパイルに綿(縦糸)を使用して織るのはギャッベの
古くからの伝統織りです。とても堅牢になり山羊の
毛を混紡すると更に堅牢になります。

重量感が増し、縦糸が綿の場合頑丈になり制作途中や
経年の為、切れてしまう事が少ない為、
寝具や壁面に使用するギャッベには重宝されました。
一方でカシュガイのギャッベは良質のウールのみを縦横共に使用していました。
 
 
特筆するべきバクティアリギャッベについて
 
どちらのギャッベも織りは至って単純な織りで制作されますが、
バクティアリ部族のギャッベは織りがとても美しいとの定評があります。
織り方は同様であるものの、糸の紡ぎ方や目の詰み方で
外観の印象が一変する事は容易に想像できます。

特にバクティアリのへシティデザインが人気で、
美しさの特性が高くオリジナルの感性を持っているようです。
過去に傑出した素晴らしい作品を多数生み出し現在も優れた作品を制作しています。

現存する180年前のバクティアリのへシティギャッベのデザインは、
美しく繊細でモダンでシンプル、尚且つカラフルな色彩がバランスよく絶妙で、
観るものを驚嘆させるとの事です。

しかしバクティアルの優れた創造力により制作された作品のアンティークや
オールドの存在は殆どなくなっているのが現状のようです。
 
 
バクティアリ部族はイランの中でも数千年の歴史を持つ古い部族です。
数千年の移動生活の中で、アレクサンダーとモンゴルの侵略を受けますが、
彼等独自の文化や芸術を破壊される事はなく、現代に受け継がれています。
 
 
前記した通り、ギャッベは敷物の中で最も毛足が長い事が大きな特徴の一つですが、
特にファールスとバクティアリのギャッベは最も長パイルで織られていました。
 
古くバクティアリギャッベは縦糸横糸がウールでしたが、
現代では堅牢さを重視して縦糸は綿を使用しているようです。
 
縦糸を綿にする事で、繊細な外観を保ちながら同時に堅牢さを
合わせ持つ事ができます。
 
バクティアリはトルコ結びで制作されますが、
このトルコとはタブリーズの意味でありイランの隣国のトルコとは異なります。





引き続き、ギャッベラインのギャッベ歴史物語は
追記という形で継続していきます。